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2008年2月17日 (日)

衛星落下

軌道投入に失敗して1年以上放置されていた米国の軍事偵察衛星が高度を徐々に下げ始め、地表に落下する見込みとなりました。軍事機密のため、衛星重量など詳しい情報は明らかにされていませんが、一説には2.6トンとも23トンとも言われています。仮に23トンであるならば、我が国が打ち上げている技術衛星がおおむね2トン程度であるのに比べるとかなり大型です。

通常の衛星であれば落下時に大気との摩擦でほとんど燃え尽きてしまいますが、過去には宇宙ステーションとして使われたミール130トン、スカイラブ80トンなどの超大型落下物があり、燃え尽きずにその一部が地上まで到達しています。通常、衛星が落下するのは姿勢制御用の燃料を使い果たして軌道にとどめることができなくなるからですが、今回の衛星では打ち上げ直後の通信途絶で全く運用ができなかった為、燃料のヒドラジンが満載の状態で約500Kg残されているようです。ヒドラジンは健康に有害で、過去には打ち上げに失敗して地上被害を起こしたこともあります。この為我が国の液体燃料ロケットでは安全に配慮して燃料に液体水素を使っていますが、姿勢制御用には同様にヒドラジンを使用しているようです。15日に打ち上げ予定だったHⅡA14号機はこのヒドラジンの注入中に漏洩が発見されて打ち上げ延期になってしまいました。

米国は安全のためとして落下途中を弾道ミサイル迎撃ミサイルSM-3で撃破し、安全に落下させる方針を発表しましたが、このことが各方面に論議を呼んでいます。反対する側のものとして中国が行った衛星迎撃実験と同列視するものですが、これは間違いです。中国が行った衛星破壊は高度約500Kmの多くの衛星が運用中の軌道上で何の予告も無しに突然行われ、多くの宇宙デブリを発生させてしまいました。これに対し今回迎撃を行おうとするものは高度約200Kmから100Km付近で地表に落下を始めた衛星です。主要部分は破壊された後大気圏に落下しますし、その他の破片も基本的に地球の引力によって落下します。軌道上を周回する衛星破壊とは根本的に異なる行為です。

SM-3の運用能力のデモンストレーションとの見方もありますが、こちらに関しては両刃の剣的な気もします。SM-3は高度約90Km以上で赤外線シーカーを使って相手ミサイルを捕捉するものですが、弾道ミサイルは打ち上げ時に大気との摩擦熱で高温になっています。一方宇宙空間を漂った偵察衛星は太陽熱以外の熱源がなく、落下の初期段階では大気が薄く発熱もほとんど起こらないと思われます。この為落下する衛星をミサイル本体が捕捉可能なのか、まあ技術的裏付けがあってのことだとは思いますが、なるべく発熱させた上で迎撃下限高度である100Km付近で迎撃するのではないかと思います。迎撃に成功すればミサイル防衛に追い風になりますが、失敗すれば非難の集中が予想されます。

地上の思惑をよそに今も衛星は毎日2、3Kmのペースで降下を続けています。何とも厄介なお荷物の落下騒動ではあります。

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コメント

今日米国がハワイ沖のイージス艦から弾道ミサイル迎撃用のSM-3ミサイルを発射して制御不能になった偵察衛星を撃破することに成功しました。高度は247Kmと予想したよりも高い高度でした。SM-3は落下速度秒速3Km程度の目標を迎撃できますが、それ以上の速度で落下する目標の迎撃は困難との見方が有力でしたが、今回秒速7.8Kmで周回する偵察衛星を撃破したことはSM-3の能力が従来言われていた以上のポテンシャルを有していたことを物語るのではないかと考えます。

ロシアは弾道ミサイルを高速化することでSM-3の無力化を図っていましたが、今回の迎撃で長距離弾道ミサイルの迎撃も不可能ではないことを実証したことになります。又、自国の衛星のミサイルによる撃破実験を行った中国が、米国に対して迎撃ミサイルによる衛星破壊作戦に対して詳細なデーターの提出を要求しましたが、これは虫のいい話です。

他国の衛星が多数周回する衛星軌道で何の予告も無く、衛星破壊実験を行い大量の宇宙デブリを発生させ、今も何の謝罪も補償の提示もしない当事国が、衛星の落下が始まる高度で迎撃した米国に対してデーターの要求をするのはお門違いと言うものです。まず、自国が行った取り返しの付かない蛮行に対して世界に向けて謝罪し、補償を明言してから他国の行動に対して言及するのが国際的に責任ある国の取るべき態度ではないでしょうか。

米国の利益云々ではなく、衛星の撃破によって地上に被害が及ぶ可能性が低減したことは素直に歓迎すべきことだと思います。

投稿: 雨辰 | 2008年2月21日 (木) 22時09分

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