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2008年8月17日 (日)

夢かなう、赤石沢遡行

このブログのタイトルの夢は青春時代に出入りしていた喫茶店の名前に由来します。私はここで多くの夢に出会いました。

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人は夢をみます。願い続けることで叶えられるのが夢、そして願いむなしく叶えることが出来ないのもまた夢です。私にとって赤石沢遡行(そこう)は後者の夢でした。手元に1975年の山岳雑誌「山と渓谷」がありますが、先鋭的山岳会の蒼山会が特集記事として赤石沢を取り上げていました。当時山登りを始めたばかりの私には強い憧れとして残りましたが、沢登りは経験がなくまさに高嶺の花でした。その後仲間と沢にも登るようになり、甲武信岳に突き上げる東沢や甲斐駒の尾白本谷などにも行くようになりましたが、相変わらず高嶺の花であり続けました。そのうち周囲の環境が山登りを許さなくなり、いつしか沢から遠ざかってしまいました。その後赤石沢も沢の中に取水ダムが造られ、下流域の水位が激減してかつての難関、ニエ淵も容易に通過できるようになったと伝えられるようになり、もしかしたらいつか行けるかもと思えるようになりましたが、その機会はなかなか訪れませんでした。

ところが、先日友人のF氏から突然「今度赤石沢に行くから一緒に行こう」と思いがけぬお誘いがあり、正直サンキューと思いましたが、本格的な沢登りからずいぶん遠ざかっているので即答出来ませんでした。後日、「うれしいけれど今の実力では無理かなあ」と返事すると「悪場は引き上げてやるからさァ」と頼もしいお言葉。ついに意を決して同行させてもらうことにしました。叶わぬ夢が叶う夢になりました。

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多くの岳人の通過を拒み続けてきたニエ淵の入り口。水量が激減した今でも深い淵で、左側を泳いで通過しました。周囲の岩に木々が生えていないのは今でも増水すればこの部分まで水位が上がる証拠です。

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赤石沢は沢を通してこのような巨岩が数えきれないくらい流れをせき止め滝を作っています。遡行者は岩をくぐり、よじ登り、かなわなければ高巻き(迂回)します。この日、沢で出合ったのは3パーティ、8人でした。1パーティ2人は釣りが目的で上には上がらないようです。多くの登山者が訪れる赤石岳ですが、当日にこの景色を見たのは我々3人を加えて9人だけです。

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沢の中に突然現れた取水ダム。こんな山中にどうやって作ったのだろうかと人類の努力に感心しました。

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巨大な人工物を過ぎるとまた元の原始の世界に戻ります。淵の中に悠然と岩魚が浮かんでいるのが不思議な感覚です。

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最大の難所と言われる門の滝。とても直登出来ないので左側の壁を高巻きます。何とか悪場を突破しようと試行錯誤した先人の知恵と、エネルギーに脱帽します。

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本日の行動時間約8時間、この淵の右側でビバークです。砂地が少ないので岩を整地して寝場所を確保です。

トレーニング不足は歴然で、普段使わない筋肉を総動員した為、全身筋肉疲労でヘロヘロです。

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同行者が竿を出して1振りするとものの数秒で大物がヒット。あまりのことにビックリしている間もなく、あっと言う間に3匹釣りあげました。年代物のガリビエールのヘルメットは私の物です。

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沢での楽しみは流木を集めての盛大な焚き火です。冷えた体に火が何よりの御馳走ですが、この日はそれを上回る御馳走がありました。刺身で食べた岩魚の味は絶品でした。

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通過不能の大ゴルジュ帯を大きく高巻くと大きな滝は無くなりますが、ちょっとした難場は続きます。疲労困憊の身にはわずかギャップもなかなか飛べなかったり、冷や汗の連続です。

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本流から支流の百間洞に入り、やっと源流の様相になってきました。しかし疲労は増すばかりで、時計を見ては溜息です。

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赤石沢の一つのゴール、百間洞山の家にやっと到着です。30年前に百間洞を下降して奥赤石沢を遡行した時は粗末な作りでしたが、小奇麗なロッジ風に建て替えられていました。ここまでの遡行時間は約19時間、条件は全く違いますが蒼山会の特集記事のタイムにプラス1時間でした。

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ヨレヨレになりながらも無事完登を自分で祝って缶ビールで乾杯。ヘリで荷揚げするアルプス価格で500mlが800円也。小屋の夕食は何と生キャベツ付きのトンカツです。うれしいことにマスタードまで用意されて感激でした。

水ぬれを心配して旧タイプのデジカメを携行しましたが、ここから先は撮影不能になってしまいました。サブカメラとして防水タイプのカメラを探すことになりそうです。最終日は朝5時過ぎに小屋をスタート、赤石岳を踏んで東尾根を下降、椹島に1時過ぎに到着出来ました。行動時間約8時間、中年オヤジの夏山が終わりを告げ、永年の夢が叶えられました。

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コメント

すげ~!!夏の沢登りは最高でしょうね。
大物イワナ?もさぞかし美味しかったことでしょう。
トレーニング不足なんてご謙遜!やはり常に山に登ることが大切ですね。我が身を見直そうと思います。
(お気楽登山ながら乗鞍岳に登り、山の良さを再認識した山奥です。)

投稿: 山奥 | 2008年8月20日 (水) 06時42分

山奥さん、コメントありがとうございます。念願が叶ったのはうれしい限りですが、体力面では完敗でした。沢登りでは腕力を使って体を持ち上げたり、岩から岩に飛び移ったりと普段とは違う筋肉を駆使します。長年本格的な沢登りから遠ざかっていた人間が容易く登れるほど赤石沢は甘くはありませんでした。百間洞山の家に辿り着いた時点で、手すりを使わなければ階段の上り下りが出来ないくらい疲労困憊&筋肉痛の状態でした。
翌日は3時間をかけて赤石岳に登り、5時間かけて下山しないと帰りの連絡バスに間に合わない状況で、疲れた体に鞭打った行動を強いられました。これも普段のトレーニングを怠ってきた自分の責任です。

帰ってからも三日間は全身の筋肉痛に悩まされましたが、あの苦しかった山行も記憶と言うフィルターを通して懐かしい思い出となりつつあります。夏は沢登りに限るなどとほざいていた、かつての生意気な気持ちが懐かしく思える今日この頃です。

投稿: 雨辰 | 2008年8月20日 (水) 20時19分

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